墨池の角で殴る

日記です。

朝は来る

最近、寝れない夜が続いている。

睡眠薬は1時間以上前に飲んだ。それでも、眠れない。

夢にも現実にも行けない。そんな夜は、未来の自分を想像する。

部屋に引きこもり、腹が減ったら床を叩く僕を、そこら辺の会社で働いて、つまらない人生を送っている僕を、一生独身で人生を終え、孤独な人生を送った僕を。

そんなあり得るかもしれない可能性の僕を想像して、僕は現実から目をそらすように眠りにつく。

 

僕は道の真ん中で、拳銃を持って立っていた。

「みんな死ねばいいんだ」

僕は目の前を歩いていた女の頭を撃った。

女はその場で倒れて、動かなくなった。

それから僕は、目についた人間を銃で殺していく。

坊主頭を殺して、太った中年を殺す。

やがて周りには誰もいなくなって、その代わりに大量の死体が落ちていた。

つまらないと思った。

僕は銃を投げ捨て、死体を蹴って転がす。

しばらく転がしてから仰向けになったその死体を見ると、僕が知っている顔だった。

周りの死体の顔を確認する。

皆、僕が嫌いな人間だった。

僕は心底どうでもいいと思った。

 

僕は教室にいた。

そこには、殺したはずの中学の担任がいた。

「さっきはよくもやってくれたな」

担任はそう言い、僕の髪を掴んで持ち上げた。

「なんで生きてるんだよ」

「お前が殺さなかったから」

そう言って担任は、僕を殴った。

痛くは無い。

それでも、殴られていると惨めで死にたくなる。

仕方なく僕はズボンのポケットから拳銃を取り出し、撃った。

担任の手から逃れた僕は、教室を出て隣の教室まで歩いた。

そこでは、背の高い男が授業をしていた。

授業を受けている人は皆が小学生くらいの子供で、楽しそうにニコニコ笑っている。

幸せそうだった。世界の残酷さを何も知らない、純粋無垢な子供。

叶うなら僕は、何も知らないまま死にたかった。この世界に、絶望する前に。

それでも僕は生きているし、この先も生きていくのだろう。

やっぱりこの世界は残酷だ。生きる理由は無くても、生きていられるのだから。

僕は一度深呼吸をして、それから覚悟を決めた。

扉を空けて、教室に入る。

子供たちの表情が恐怖に変わっていく。

僕は構わず進んで、ひとりの男の席で足を止める。

「ようやく来たんだね」

そいつは、笑って言った。

「待ちくたびれたよ」

「ごめん、6年も待たせて」

ようやく、今が来た。

「もう心残りはない?」

「ないよ」

嘘だった。本当は後悔しかなかない。それでも、朝は来るから。

「それじゃあ、さよならだね」

「うん」

そいつの寂しそうな表情を見て、泣きそうになった。

それでも僕は涙をこらえて、そいつのこめかみに拳銃をあてる。

「またね、僕」

「ああ、じゃあな」

銃声。

そしてだから、次は僕の番だった。

僕は自分の頭に拳銃をあてる。

「またな、僕」

銃声。

 

 

目が覚めると、昼だった。

僕はキッチンまで歩いて、パンに柚子胡椒といちごジャムを塗って口に運ぶ。

これが意外と美味しくて、なんだか拍子抜けしてしまった。

そういえば昔、同じような組み合わせで、パンを食べていたことがあったような気がする。

今となってはその時を思い出すことは出来ないのだけど、それでもいいと、僕は思った。