墨池の角で殴る

日記です。

「ねえ、私のこと、愛してる?」

深夜、橋の上を歩いていると、隣を歩く彼女がそう尋ねてきた。

「世界で一番愛してるよ」

「……なんか嘘くさいね」

「本当だよ」

彼女はセフレではないし、結婚詐欺のカモでもない。僕は心から彼女を愛していた。

「じゃあ証明してよ」

僕は少し考えてからスマホでlineを開き、メッセージ履歴を見せた。

「そういうのじゃなくてさ」

「じゃあ君のうんこ食べるよ」

「そういうのじゃなくてさ!」

「じゃあどうすればいいのさ」

すると彼女は数舜押し黙って、それから試すように言った。

「私のために死ねる?」

「死ねるよ」

僕は間髪入れずにそう答えた。

「今すぐに?」

「うん」

「じゃあ死んで」

「分かった」

僕は橋の手すりに足を掛けると、彼女が僕の腕を掴んだ。

「やっぱ死ななくていいよ」

「じゃあ、どうやって証明すればいい?」

僕は分からなくなって、そう尋ねた。

それからまた、数舜の沈黙が訪れた。

僕は黙って、彼女の答えを待った。

「……何も言わずに死なないでね」

ようやくそう言った彼女の表情は、どこか寂しげだった。

僕は彼女のその言葉に、頷く事が出来なかった。

たとえ嘘をついてでも、僕は頷くべきだったのかもしれない。

それでも僕は、彼女の言葉に頷く事は出来なかった。僕は彼女を、愛していたから。

それから僕たちは、手を繋いで歩いた。

そこに会話は無く、流れる川の音だけが響いていた。